秘密実験【完全版】



「ハァ……」


 何度目のため息だろうか。


 杏奈は膝に毛布をかけ、壁にもたれかかっていた。


 照明が落とされた室内には、暗闇が広がっている。


 中野の死体が脳裏に焼きついて離れない。


 悠介の死体写真も酷いものだったが、あれは作りものだと言う可能性に賭けたい。


 生きてさえいれば、また会える……よね?


 家族も友達もあまり信用していない杏奈にとって、自分を一番大切にしてくれた悠介は特別な存在である。


 その彼がいなくなってしまった今、心の支えが皆無だった。


 悠介は死んでなんかいない。


 そう自分に言い聞かせるのだが、リーダーの男は仲間すら見殺しにしてしまう冷血人間だ。


 人の命を虫けらのように扱う、良心の呵責もない悪魔……!


 そのとき、静かに扉が開いた。


 杏奈はハッと息を飲み、人物を仰ぎ見た。



「お元気……ですか?」


 少し疲れているような、弱々しい笑みを口元に浮かべる坊主の森耕太郎が立っていた。


 目が少し赤いところを見ると泣いたのだろう。


 仲間の死を悼む、優しい性格が窺える。



「……見張りは?」


 杏奈は小声で訊いた。


 すると、耕太郎は小さく首を横に振った。



「色々あって……。しばらくは、僕が監視役の責任を負うことになりました」


 そう言いながら、自分の足元に視線を落とす。


 監視役がこの男だけ……好都合だわ!


 杏奈は心の中で喜びの声を上げながらも、顔には出さないように努めた。



「リーダーがそう言ったの?」


「えぇ、まあ。……他にいないんですよ、人が」


 耕太郎が頭を掻きながら言う。


 他に人がいない?



「ピエロは? ゾンビだっているじゃない」


「いや、それが……。ピエロの先輩はいますけど、ゾンビ?の先輩は身内に不幸があったらしくて……帰っちゃったらしいんです」


 耕太郎は肩をすくめながら、戸惑いの表情でそう言った。


 身内に不幸?


 ふん、ざまぁみろね。


 犯罪なんかに荷担するから、罰が当たったのよ。


 口にこそ出さないが、杏奈は笑いたくて仕方がなかった。


< 125 / 176 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop