秘密実験【完全版】
「ハァ……」
何度目のため息だろうか。
杏奈は膝に毛布をかけ、壁にもたれかかっていた。
照明が落とされた室内には、暗闇が広がっている。
中野の死体が脳裏に焼きついて離れない。
悠介の死体写真も酷いものだったが、あれは作りものだと言う可能性に賭けたい。
生きてさえいれば、また会える……よね?
家族も友達もあまり信用していない杏奈にとって、自分を一番大切にしてくれた悠介は特別な存在である。
その彼がいなくなってしまった今、心の支えが皆無だった。
悠介は死んでなんかいない。
そう自分に言い聞かせるのだが、リーダーの男は仲間すら見殺しにしてしまう冷血人間だ。
人の命を虫けらのように扱う、良心の呵責もない悪魔……!
そのとき、静かに扉が開いた。
杏奈はハッと息を飲み、人物を仰ぎ見た。
「お元気……ですか?」
少し疲れているような、弱々しい笑みを口元に浮かべる坊主の森耕太郎が立っていた。
目が少し赤いところを見ると泣いたのだろう。
仲間の死を悼む、優しい性格が窺える。
「……見張りは?」
杏奈は小声で訊いた。
すると、耕太郎は小さく首を横に振った。
「色々あって……。しばらくは、僕が監視役の責任を負うことになりました」
そう言いながら、自分の足元に視線を落とす。
監視役がこの男だけ……好都合だわ!
杏奈は心の中で喜びの声を上げながらも、顔には出さないように努めた。
「リーダーがそう言ったの?」
「えぇ、まあ。……他にいないんですよ、人が」
耕太郎が頭を掻きながら言う。
他に人がいない?
「ピエロは? ゾンビだっているじゃない」
「いや、それが……。ピエロの先輩はいますけど、ゾンビ?の先輩は身内に不幸があったらしくて……帰っちゃったらしいんです」
耕太郎は肩をすくめながら、戸惑いの表情でそう言った。
身内に不幸?
ふん、ざまぁみろね。
犯罪なんかに荷担するから、罰が当たったのよ。
口にこそ出さないが、杏奈は笑いたくて仕方がなかった。