秘密実験【完全版】
「家族のこと、好きなんだ?」
杏奈は少し前屈みになり、耕太郎の顔を覗き込むようにして言った。
本心とは裏腹に、興味津々の表情を装いながら──。
「まぁ……普通ですよ」
照れたように鼻の頭を掻く彼はしかし、家族以上に大切なものはないと言っているのも同然に見えた。
じゃあ、私は普通じゃないんだ。
……家族のこと、好きじゃないもの。
杏奈は一瞬物思いに耽りそうになりながらも、耕太郎に控えめな微笑を投げかける。
「家族以外に大切な人っている? 例えば……彼女とか」
「彼女っ……!? い、いるわけないじゃないですか。……野球バカだった僕に」
顔を赤くしながら、激しく首を振る耕太郎。
予想通りの反応に、杏奈は笑いを噛み殺した。
逆に「いますよ」とか言われたら、こっちが慌てるところだったわ。
「野球? ……あぁ、だから坊主なんだ」
「えへへ、分かります?」
坊主頭を掻きながら照れ笑いをする耕太郎を見て、杏奈は複雑な感情を抱いた。
笑うと目が細くなるところとか、やっぱり悠介に似てる……。
野球詳しくないから、これ以上話は弾みそうにないけど。
「……コウちゃんとは、こんな形で出会いたくなかったな」
俯きがちに呟いた言葉は、もちろん本心からではない。
その瞬間、ハッと息を飲む音が聞こえた。
「えっ! う……、そうですよね。僕も……杏奈さんとは普通に、それこそ学校とかで出会いたかった」
耕太郎は百面相をしながら、自分の複雑な心情を吐露した。
……学校で出会ったとしても、相手にしないと思うけどね?
杏奈はそんな冷ややかな本心をおくびにも出さず、雰囲気を壊さぬように徹した。
「でも、コウちゃんがどうして……? こんなこと……」
視線を落としながら言い、上目遣いに彼を見上げる。
その愛らしくも切なげな表情に動揺したのか、耕太郎の喉仏が上下するのが見えた。
「っ……。杏奈さん──聞いてくれますか? 僕の……過去の話を」
そして、彼は声を震わせながらポツポツと話し出した。
リーダーが絶対的な存在である理由を……。