秘密実験【完全版】
家族は……学校の友達は……今頃、どうしているのだろうか?
考えれば考えるほど、髪を掻きむしって絶叫したくなる衝動に駆られる。
アンタたち、どうせ本気で私のこと心配してないんでしょう!?と……。
それは、杏奈が彼らを信頼していないからこそ生まれた疑心暗鬼だった。
「じゃあ、僕はそろそろ……。次は飲み物と食べるもの持って来ますね?」
耕太郎の声に顔を上げると、杏奈は小さく首を振った。
「食べ物はまだあるからいいわ。……次はいつ来れる?」
恋人に尋ねるような甘えた口調で言う。
「分かりません……が、なるべく早めに来るようにします。喉の渇きはお辛いでしょうから……」
耕太郎は自分のことのように顔をしかめながら言った。
──生温い水道水なら飲み放題だけどね。
「それじゃ……失礼します」
律儀に頭を下げて、扉を閉める。
外側から鍵をかける音を聞きながら、杏奈は毛布の上に身体を投げ出した。
いつになったら自由になれるの?
こんなの、もう沢山だわ……!
一人になった杏奈は、苛立ちを募らせた。
耕太郎と話しているときは、幾らか気分が紛れるのに──。
「……生きるべきか、死ぬべきか」
うっすらと染みのついた天井を見つめながら、かの有名な台詞を口にした。
自分は生きているのか、死んでいるのか。
杏奈にとって、この監禁生活は死んだも同然の地獄だった。
もう十日も、太陽の光を浴びてないんだ……。
自慢の白い肌が艶を失い、荒れつつあるのが悲しかった。
肌だけではなく、髪も爪も唇もかつての潤いがなくなっている。
「く……っ」
涙が込み上げそうになるが、舌を軽く噛んで堪えた。
もう泣くのは止めよう──負けたくないから。
心を殺せたらどんなに楽になるだろう。
それでも、杏奈は正気を失いたくなかった。
“世間知らずのお坊ちゃん”に、世の中アンタの思い通りにはいかないんだってことを思い知らせてやる……!