秘密実験【完全版】
第七章
目を開けると、底無しの暗闇が広がっていた。
……何かが、おかしい。
しばしの眠りから覚めた杏奈は、息を殺して周囲の異変を感じ取った。
室内の温度が低くなったような、そんなひんやりとした空気が漂っている。
ふと視線を横にずらすと──
「……ッ!!」
杏奈は大きく息を飲み込んだ。
そこに、いるはずのないものが“いた”。
壁の隅に、青白い光をまとった長い髪の女が立っている。
顔はよく見えないが、見覚えのあるワンピースを着ていた。
あれは……リーダーが焼いた、レトロなワンピース?
幻覚か、本物か──。
幽霊女におののきながらも、杏奈は現実離れした光景に目を凝らした。
“彼女”が出たのはこれで二回目だ。
そして、感覚が鋭くなった杏奈は気づいてしまう。
この幽霊が、見せられた写真の女と同一人物だと言うことに。
リーダーに関係のある人物かもしれない。
そのとき、幽霊がゆらりと揺れ動いた。
青白い顔をしたまま、フラフラと杏奈の方に歩み寄ってくる。
ポタ……ポタ……ポタ……
“彼女”が歩くたびに、地面に血溜まりが出来る。
杏奈は迫り来る幽霊に、背筋をゾッと凍らせた。
「い、嫌っ……。消えて!!」
恐怖のあまり叫び声が上ずった。
目を堅く閉じて、呼吸を止めた。
まるで気配を殺すように。
不気味な静寂が室内を支配し、杏奈は恐る恐る目を開けた。
幽霊の姿は消えていた。
「ハァ……ッ」
安堵して肩の力を抜き、詰めていた息を吐き出す。
もしかして幻覚なのだろうか?
眠っている間に、怪しい薬でも打たれたとか……。
杏奈は色々と考えるが、結局答えは出なかった。
本物の幽霊だとしたら、あれは誰で何をしたかったのか。
「もう嫌……っ」
杏奈は眠るのが怖くなった。
最初の頃と比べると、明らかに“実験”が減ってきている。
喜ばしいことなのかもしれないが、何もせずに座っていることも苦痛だった。
外の空気を吸って、太陽の光を浴びたい……。