秘密実験【完全版】







『……以前よりお伝えしております、高校生の男女二人が行方不明になっている事件で、木南杏奈さんの両親が初めてインタビューに応じました。その映像をご覧下さい』


 テレビの中の女性アナウンサーが落ち着いた口調で原稿を読み上げる。


 言い終わるのと同時に画面が切り替わり、中年の男女が画面に映し出された。


 男は白髪混じりで、がっちりとした体躯に高価そうなスーツと言う出で立ちだった。


 女は四十前後で、茶髪に厚化粧という若作りに必死な人工的な美人という印象である。



『杏奈は優しい子でした……。小さい頃はいつも、パパ、パパと懐いててねぇ。……えっ? 冗談じゃない。男と駆け落ちするような、ふしだらな娘じゃありませんよ!』


 木南杏奈さんの父・薫さん(52)と表記された男は、泣きそうに声を詰まらせたり不愉快そうに顔をしかめたりと、表情豊かなものだった。


 二週間近くも行方不明となっている娘を心配すると言うより、いかにテレビ映えするかと言うことばかり気にかけているように見える。



『親子仲……ですか? まあ、それなりだったと思いますけど。杏奈とは買い物に行ったりすることもありましたし』


 木南杏奈さんの母・葉子さん(41)と表記された女は、髪を掻きあげながら無愛想に答えた。


 彼女は実の母ではなく、継母だと言うことを週刊誌で報じられている。


 お世辞にも、“優しそうなお母さん”のイメージは湧かない。



「……杏奈チャン、家庭環境があんまり良くないんじゃねえか? まっ、俺様の知ったことじゃないけどよ」


 頭の後ろで両手を組みながら、額田哲司はまるで深刻さとは無縁な口調で言った。


 ……こいつは深刻そうだけどな。


 哲司はチラリと、テレビを見つめたまま固まっている森耕太郎を横目で見やった。


 血色の悪い唇をギュッと噛み、半ば呆然とした表情で立ち尽くしている。



「コウタ! お前、あのオンナに惚れたんじゃねーだろうな?」


 手持ち無沙汰の哲司は、茶化すように言ってみた。


 耕太郎の肩がピクリと小さく跳ねて、怒ったような顔をこちらに向ける。



「……まさか。自慢じゃないですけど、僕は三次元の女性には興味が持てませんから」


 こいつ、隠れオタクだったのかよ……。


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