秘密実験【完全版】



 まぁどうでもいいけど、と興味を失った哲司は耕太郎から目を逸らした。


 ソファーから立ち上がって、居間を後にする。


 ギシギシと小さく軋む廊下を歩きながら、ふと哲司は立ち止まった。


 ……確か、この部屋だよな?


 重厚な造りの扉を前に、ゴクリと生唾を飲む。


 真がちらりと言っていた“金庫部屋”。


 金庫だけじゃなく、金目のものはこの部屋に保管してあるはずだ。


 全身の血液が逆流するような興奮に包まれ、心臓がドクドクと早鐘を打ち始めた。


 真は留守だし、あいつはテレビに夢中。


 ……絶好のチャンスじゃねぇか?


 哲司は答えを出すより先に、扉を静かにゆっくりと開けた。


 施錠されていない扉に拍子抜けしてしまう。


 ……不用心だな。


 それとも、俺を信用したのか?


 哲司は口元を緩ませながら、部屋の中に足を踏み入れた。


 大きな金庫が目を引き、吸い寄せられるように近づいていく。


 あれだ、間違いねえ……!


 心臓の鼓動がさらに速くなり、哲司は武者震いをした。


 ダイヤル式の金庫らしいが、今は壊れていて開けようと思えば簡単に開いてしまう──と、真は言っていた。


 あの金庫の中には、きっと金塊や札束が入っているのだろう。


 “俺の全財産がある”──真の言葉を思い出し、ニヤニヤが止まらない。



「すげぇ高そうな壷とか時計もあるな……」


 哲司は部屋を見回しながら、低い声で呟いた。


 白を基調とした空間の中で、大きな金庫が一際存在感を放っている。


 真の好きなカラーである黄色の椅子が置かれていた。


 ……まっ、んなことより金だ!


 哲司は卑しい笑みを浮かべて、金庫の前に立ちはだかった。


 そしてごくりと唾を飲み込むと、興奮のあまり震える手を伸ばした。


 ガタンッ!!



「……あ?」


 突然床が大きく揺れ、哲司はポカンと口を開いた。


 次の瞬間、身体を宙に投げ出された。



「うッ……わぁああああ!!」


 哲司は絶叫しながら、開いた床の隙間に吸い込まれていった。


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