秘密実験【完全版】
一瞬、何が起きたか分からなかった。
頭と背中に強い衝撃を受けて、身動きが取れない。
獣のような匂いと、じっとりと生暖かい空気が充満している。
「いってぇ……痛えよぉ……」
哲司は半ベソを掻きながら、目だけを忙しなく動かした。
果てしなく嫌な予感がする。
ここはもしかして……、
“檻”の中?
哲司の伸ばした手に、何かが触れた。
綺麗に折りたたまれた紙切れ……。
地面に仰向けになったまま紙を開く。
そして、哲司は一瞬にして絶望の淵に追い込まれた。
【裏切り者には粛清を】
神経質そうな端正な文字は、紛れもなく彼の筆跡だった。
芹沢真……お前は、最後まで俺の上に立つ男だったな。
「フッ……」
哲司は目を閉じて、自嘲混じりの吐息を漏らした。
この密室で餓死するのか。
そう思うと、馬鹿馬鹿しくて笑えてくる。
天井は高いし、この身体じゃ立ち上がれそうもない。
「ふ……ふふっ。クククッ……あははははは……はッ!?」
哲司は笑みを浮かべたまま、息を飲み込んだ。
今、何か変な音がしなかったか?
シュルルル……
来る──、“何か”が来る。
地面を這いずるような音とただならぬ殺気を感じ、一気に身体が強ばった。
頭を持ち上げ、音の正体を確認する。
「ひッ……!? 何だ、あれは……」
哲司の顔は一瞬にして青ざめて、ガタガタと身体を震わせた。
まだら模様の蛇がゆっくりと、しかし確実に迫ってきている。
まるで、獲物を狙うように──。
「や、やめッ……やめろ! 俺を食ったって、美味くねーぞ? ひッ……く、来るなぁあああ!」
涙と鼻水で顔をグチャグチャにしながら、哲司は我を忘れて泣き叫んだ。
あれは多分、毒蛇の類……。
蛇にあまり詳しくない哲司でも、こいつが危険なのは本能で感じ取った。
シャアアアアアッ──!!
眼前に迫った蛇が大きく口を開け、凄まじい威嚇音を発する。
「ぎゃああああっ……」
額田哲司は蛇に噛みつかれ、猛毒が全身に回って息絶えた。