秘密実験【完全版】
杏奈の目の前で立ち止まると、芹沢は背筋が凍るほど冷たい目つきで見下ろしてきた。
心底怒っているのだろう。
今の彼なら、目で人を殺すことが出来るかもしれない。
「……ほら、食えよ」
「きゃっ!」
突然、杏奈の髪を鷲掴みにして上を向かせた。
手にした肉を無理やり、口の中に入れようとする。
髪が千切れそうなくらい引っ張られ、痛みと恐怖で顔がひきつってしまう。
「……痛いっ! 食べるから、離して!」
「黙れ。骨ごと飲ませるぞ」
芹沢真は珍しく、怒りを含んだ口調で言った。
憎たらしいくらいに冷静だった彼が、初めて感情的になっている。
しかし、杏奈にとっては震え上がるほど恐ろしかった。
言われるがままに口を開けて、ぶよぶよした不味い肉を食べなければならない。
「ん……ッ」
目を閉じて飲み込むと、吐き気に襲われた。
何か飲み物が欲しい。
しかし、芹沢真は解放してくれなかった。
「……まだだ。骨が残ってるだろう?」
「やッ……無理よ! そんなの」
杏奈は青ざめながら、必死に首を振った。
骨なんか食べたら、喉に突き刺さって死んじゃうわ!
「俺に刃向かうのか? 被験者の分際で……」
芹沢は低く言うと、杏奈の口に骨を押し込んだ。
それほど太くない骨は、喉の奥まで入ってしまう。
「んぐッ……がァ……!!」
苦しさにもがきながら、杏奈は声にならない声を漏らした。
喉の奥に引っかかって、息がうまく吸えない。
あまりの苦しさに顔が歪み、目を白黒させる。
「おぇえッ……げほっ、げほっ! ハァ、ハァ……ッ」
咳き込んだ拍子に骨を吐き出し、喘ぐように呼吸を繰り返す。
杏奈の顔は涙と涎でグチャグチャになっていた。
「……見苦しい」
芹沢真は不機嫌そうに呟くと、部屋から出て行った。
残された杏奈は地面に身体を投げ出し、仰向けになって呼吸を整えていた。
命の危険にさらされ、以前より生への執着が強くなった。