秘密実験【完全版】



 見苦しいと言われても、生きていたいのだ。


 そもそも、見苦しい姿にさせているのはそっちなのに──。


 杏奈は寝そべったまま大きく息を吐き出した。


 喉の奥に違和感が残っている。


 あの骨の感触が……。


 これ以上何も考えたくなくて、スッと目を閉じた。


 何もかも忘れて、早く眠ってしまいたい。


 早く、早く──!



「っ……、ハァ……」


 しかし眠ることが出来ず、杏奈は息苦しさを覚えながら目を見開いた。


 こんなとき、耕太郎が来てくれたら気が紛れるのに。


 飲み物持って来てくれるって約束したのに……嘘つき。


 静かに扉が開く音がして、杏奈はハッと顔を上げた。


 ……コウちゃん?


 そうでありますように!!


 まるで、なかなか会えない恋人を待ち焦がれるような気持ちで祈る。


 姿を現したのは、やはり耕太郎だった。


 杏奈と目が合うなり、唇に人差し指を当てて小さく微笑んだ。



「……リーダーが留守にしてるので、慌てて来ちゃいました」


 小声でそう言うと、服の下に隠し持っていたペットボトルを見せてきた。


 スポーツドリンク……。


 水やジュースより、栄養価の高い飲み物の方が杏奈には必要と判断したのだろう。


 手錠を外してもらうと、杏奈はスポーツドリンクをごくごくと勢い良く飲んだ。


 冷えているため喉越しが良く、美味しかった。



「はぁ……。生き返った気分」


「それは良かった。……心配だったんです。リーダーにその、痛めつけられてたようですから……」


 濡れた口元を手の甲で拭う杏奈を見つめながら、耕太郎は心配そうに眉尻を下げる。


 本当に優しいんだから。


 リーダーを殺してまで私を助け出す勇敢さと男気が欲しいけど……ね?



「何か変わったことはない?」


「変わったこと……? あぁ、そう言えば額田せんぱ……ピエロさんの姿が見えないんですよね」


 またパチンコにでも出かけたのかな、と耕太郎は独り言のように呟く。


 ピエロがいない?


 ……どんどん仲間が消えていってる。


 杏奈はペットボトルを持ったまま、うつむきがちに考えを巡らせた。


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