秘密実験【完全版】
扉には鍵はかけられていないが、精一杯手を伸ばしても届きそうにない。
手前の扉は出入り口ではないだろう。
視線をさまよわせていた杏奈は、ふとテレビに目を留めた。
とにかく、時間と日にちを確認したい。
ゆっくり立ち上がると、ジャラジャラと鎖の音が鳴った。
裸足で触れる灰色の地面は、無機質なほどに冷たい。
テレビの前に立つと、杏奈は肘で電源ボタンを押した。
ザザ────ッ
耳障りな雑音を伴う、黒と白の砂嵐が画面を占拠する。
「何これ……。壊れてるの?」
落胆と苛立ちのあまり、声に出して呟く。
リモコンらしきものは見当たらない。
何も映らないテレビを前に、杏奈は途方に暮れて立ち尽くしていた。
ザザッ……
突然、砂嵐から白い映像に切り替わった。
杏奈ははっとして画面を見つめた。
カメラがゆっくりと下がっていき、一人の人間の姿を映し出す。
うなだれていて、顔がよく見えない。
しかし、その服装には見覚えがあった。
「っ……悠介!?」
杏奈は半ば叫ぶように言うと、食い入るように画面を凝視した。
遊園地に着てきた、グレーのTシャツにストレートジーンズ。
そして、ワックスで軽く毛先を遊ばせた清潔感のある黒髪……。
彼氏の悠介に間違いない。
──でも、何で悠介まで?