秘密実験【完全版】
第八章



 暗い居間に、いびきが響いていた。


 ソファーに寝そべっているのは、坊主頭の森耕太郎。



「ムニャムニャ……ん?」


 心地良い睡眠に耽っていた彼は、寝言を呟きながら現実の世界へと戻された。


 毛布を蹴って、がばっと起き上がる。


 時計は午前三時を回っていた。


 嘘だろ……!?


 五時間も経ってるじゃないか。


 仮眠のつもりが本格的に眠ってしまったらしい。


 耕太郎は青ざめながら、慌てて居間を後にした。



「真さん……怒ってるだろうなぁ」


 階段を駆け下り、地下の監視室に急ぐ。


 リーダーは時間や規則に厳しい男だ。


 予定より二時間も寝坊した自分に、どのような罰が課せられるのだろうか。


 耕太郎は小さく怯えながら扉を開けた。



「すみません、遅れまし……あれっ?」



 監視室は無人だった。


 低いモーター音だけが室内に響いている。


 どこかに行ってしまったようだ。


 耕太郎は安堵のため息を吐くが、すぐに違和感を覚えた。



「何で……消えてるんだ?」


 耕太郎はモニターの異変に気づき、訝しげな表情で呟いた。


 画面が真っ暗で、電源コードが抜かれている。


 ドクン……ドクン……ドクン!


 不吉な予感が頭をもたげ、心臓の鼓動が速まっていく。


 明らかに、普段とは違う雰囲気なのだ。


 ふと、机の上に置かれた白い袋が目に留まる。


 それが何なのか気づいた瞬間、耕太郎はハッと息を飲んだ。



「そんな……」



 真のものだと思われる、病院で処方された睡眠剤だった。


 先週、車で何時間もどこかへ出かけたのは、心療内科に通院するためだったのだろう。



『オレンジ、好きだろ?』


 耕太郎は昨夜、真からオレンジジュースを受け取ったことを思い出した。


 寝坊するように、仕向けられたのだ。


 でも……何の為に?


 耕太郎は疑問と不安を抱きながら、転げるようにして監視室を飛び出した。



「杏奈さんっ……!」


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