秘密実験【完全版】



『愛するカノジョがお前の声を聞きたいんだとよ!』


 ピエロ男は声を尖らせ、意識を取り戻さない悠介の脇腹に躊躇なく蹴りを入れた。



『うぐッ……! ゲホッ、ゴホッ!!』


 激しく咳き込みながら、紫色に腫れた瞼を開ける悠介。


 目の焦点が定まっておらず、意識朦朧としているようだ。



「悠介! 聞こえる? 杏奈だよ……」


 変わり果てた姿の彼を見るのは辛いが、杏奈は泣き声でそう呼びかけた。


 しかし、悠介の耳には届かない。


 まさか、暴力を振るわれて耳の鼓膜が破れたんじゃ……?



『起きろっつってんだろうがよォ、この間抜け野郎!』


 ピエロ男が短気を起こし、悠介の顔面にペットボトルの水を浴びせた。


 またしても、背中を丸めて咳き込む悠介。



『ゴホッ……!! や、やめろ……起きてるよ!』


 やっと声を発した彼は、怒りを含んだような強い口調で言った。


 良かった……生きてて。


 杏奈は安堵の息を吐き、涙で瞳を潤ませた。



『ヘッ、貧弱のくせにイキがりやがって……。鼻血なんか垂れ流して、イケメンも台無しだな! ざまぁみやがれってんだ』


 ピエロ男は下品な笑い声を立てると、残りの水を一気に飲み干した。


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