秘密実験【完全版】



 椅子に座り直し、脚を組んだ。


 真はこの二週間を思い返した。


 二人を監禁し、男には“身体的苦痛”、女には“精神的苦痛”を与え……。


 どちらも一週間足らずで、発狂するものだと甘く考えていた。


 しかし──


 実験は失敗に終わった。


 原因は?


 実験内容が生半可なものばかりで、嫌がらせの域を出なかったからだ。


 少年はそれほど鍛え上げられた体躯でないにも関わらず、暴行を受け続けても自分を見失うことはなかった。


 痛みや一時的なショックで気を失うことはあったものの、結局はこの実験に耐え忍んだことになる。


 守るべき存在があったから……。


 少年にとって本当の苦痛とは、大切な人を痛めつけられ、失うことであった。


 つまり、精神的な苦痛を与えた方が効果があったのである。


 少女はその反対で、精神的苦痛を苦痛とは思わないタイプだった。


 自分以外なら、誰が傷ついても構わない。


 彼氏が暴行されて衰弱していく様を見せられても、少女はさほどダメージを受けていなかったのだ。


 しかし、自分に実害が及ぶなり、泣き叫んだりと怯えた様子を見せ始めた。


 真は実験終盤で、自分の詰めの甘さを思い知らされた。


 最初から、肉体的苦痛を与えるべきだったと──。


 しかし、今更もう遅い。


 実験は失敗に終わったのだ。


 カップルを選んだ真の作戦が、仇となったのである。



「俺は……何がしたかったんだ……?」


 真は前屈みになり、両手で頭を抱えながら弱々しく呟いた。


 その拍子に、拳銃がカタンと音を立てて地面に落ちる。


 拳銃。


 “死”……。


 真はそのままの姿勢で、じっと拳銃を見つめていた。


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