秘密実験【完全版】
エピローグ
八月三日──。
閉園時間が迫る夕暮れ、二人は遊園地の花形である観覧車に乗っていた。
「好きだよ、杏。これからもずっと」
「うん。私も……悠介が好き」
互いに見つめ合い、どちらからともなく静かに唇を重ねた。
もう半年も付き合っているのに、数えるほどしかキスをしていない。
それもこれも、悠介が奥手すぎるのよ!
まあ、そんなところも好きなんだけどね──と、杏奈は心の中でつけ加えた。
「ねぇ、杏。俺さぁ、何か怖い……」
悠介が神妙な面持ちで呟く。
「怖い……?」
「うん。幸せすぎて怖い!」
そう言って、悪戯っぽく笑う優しい恋人。
思わず杏奈も吹き出し、彼の頭を叩く真似をした。
「もう、何言ってんの~」
「あははっ。でもさ、俺は本当に幸せ者だと思う。こんなに可愛い彼女がいて……さ」
鼻の頭を掻きながら照れ笑いをする悠介を見て、杏奈は何も言えなくなった。
悠介……。
口には出さないけど、私も幸せだよ?
何があっても、私たちは大丈夫。
固い絆で結ばれてるから。
「悠介、こっち向いて?」
「え? ……あっ!」
不意打ちで悠介の唇にキスをした。
案の定、彼は顔を赤らめながら慌てている。
笑いの絶えない一日だった。
「あ、そうだ。来週は海だからな?」
「分かってるってば!」
悠介はどうしても海に行きたいらしい。
そんなに急がなくても、私たちにはまだまだ沢山の時間があるのに。
……そうだよね、悠介?
輝かしい未来に暗雲が立ち込め始めていることも知らず、若い二人は別れを惜しむかのようにいつまでも手を繋いでいた。
【秘密実験・完】