秘密実験【完全版】
エピローグ



 八月三日──。


 閉園時間が迫る夕暮れ、二人は遊園地の花形である観覧車に乗っていた。



「好きだよ、杏。これからもずっと」


「うん。私も……悠介が好き」


 互いに見つめ合い、どちらからともなく静かに唇を重ねた。


 もう半年も付き合っているのに、数えるほどしかキスをしていない。


 それもこれも、悠介が奥手すぎるのよ!


 まあ、そんなところも好きなんだけどね──と、杏奈は心の中でつけ加えた。



「ねぇ、杏。俺さぁ、何か怖い……」


 悠介が神妙な面持ちで呟く。



「怖い……?」


「うん。幸せすぎて怖い!」


 そう言って、悪戯っぽく笑う優しい恋人。


 思わず杏奈も吹き出し、彼の頭を叩く真似をした。



「もう、何言ってんの~」


「あははっ。でもさ、俺は本当に幸せ者だと思う。こんなに可愛い彼女がいて……さ」


 鼻の頭を掻きながら照れ笑いをする悠介を見て、杏奈は何も言えなくなった。


 悠介……。


 口には出さないけど、私も幸せだよ?


 何があっても、私たちは大丈夫。


 固い絆で結ばれてるから。



「悠介、こっち向いて?」


「え? ……あっ!」


 不意打ちで悠介の唇にキスをした。


 案の定、彼は顔を赤らめながら慌てている。


 笑いの絶えない一日だった。



「あ、そうだ。来週は海だからな?」


「分かってるってば!」


 悠介はどうしても海に行きたいらしい。


 そんなに急がなくても、私たちにはまだまだ沢山の時間があるのに。


 ……そうだよね、悠介?



 輝かしい未来に暗雲が立ち込め始めていることも知らず、若い二人は別れを惜しむかのようにいつまでも手を繋いでいた。





【秘密実験・完】


< 176 / 176 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:70

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

久遠の空

総文字数/13,029

ミステリー・サスペンス5ページ

表紙を見る
檻の中

総文字数/126,257

ホラー・オカルト148ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop