秘密実験【完全版】
『自力じゃ動けないだろうが、下の世話までは出来ねぇ。ってことで、一日一回だけトイレに連れて行ってやる』
男の声には、嘲笑の響きが含まれていた。
きっとお面の下では、だらしなく口元を緩めながらニヤニヤしているのだろう。
一日一回だなんて……酷い!!
『まァ、そんな心配すんな。食い物は死なない程度に与えてやるから。なっ?』
『うぐぐッ……』
ピエロ男は念を押すように、悠介の髪を手荒く掴んで揺さぶる。
そして、カメラの方を振り返った。
『汚物を垂れ流す彼氏なんか、見たくねぇだろ? リーダーの優しい心遣いに感謝するんだな! ヒッヒッヒッ……』
卑しい笑い声を上げたかと思うと、ブチッと音を立てて画面が真っ暗になった。
再び、砂嵐に切り替わる。
「ハァ……」
杏奈は重苦しい気持ちになりながら、肘で電源ボタンを押した。
静まり返る室内に、自分の息遣いだけが虚しく反響する。
そう言えば、ここは何だろう?
出入り口ではない方の扉を恐る恐る開けると、何の変哲もないバスルームだった。
バスタブよりも、洋式トイレの方に目がいく。
私は自由に使っていいんだよね?
……良かった。
身動きが取れずに苦しんでいる悠介には申し訳ないが、杏奈はトイレの心配をしなくて済んだことにホッと安堵した。