秘密実験【完全版】



 室内は蒸し暑く、肌が汗ばんで気持ち悪い。


 今すぐにでもシャワーを浴びたかった。


 しかし、勝手に使うのは気が引ける。


 ピエロ男に裸を見られるのも嫌だ。



「……やめとこ」


 目の前のオアシスを諦めて、バスルームの扉を後ろ手に閉める。


 それから、杏奈は壁に寄りかかったり、狭い部屋を歩き回ったりした。


 捜索願い、出てるかな……?


 お父さん、こういうときくらい役に立ってよ!


「ハァ……」


 ため息しか出てこない。


 座っても立っても、気分は落ち着かない。


 怪しげな連中に監禁されているのだから、当然なのだが……。


 ──犯人の正体は?


 ──“実験”の内容は?


 ──なぜ、自分たちが選ばれたのか?


 そんな疑問が頭の中をぐるぐると駆け回る。


 杏奈は不安に駆られながら、扉が開く瞬間を恐れた。


 しかし、こんな状況でも腹は減るものだ。


 お腹空いた……。


 あぁ、ドーナツが食べたい。


 杏奈は床にうずくまりながら、大好物のドーナツをぼんやり思い浮かべていた。


 胃の中が空っぽなんじゃないかと思うほど、彼女の腹部はほぼ平らだった。


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