秘密実験【完全版】
第二章
先ほどから腹の虫が鳴り止まず、何度目かのため息を漏らしたときだった。
扉が開く音がして、壁にもたれていた杏奈ははっとして振り返った。
「……!」
そこに立っていたのは、おかめの面を被ったギャル系の女だった。
緩く巻いた茶色の髪をアップにして、タンクトップから覗く胸の谷間を強調している。
この女(ひと)、香水臭い……!
匂いに対して敏感な杏奈は、思わず顔をしかめた。
「……何? そのムカつくリアクション」
女は刺々しい口調でそう言うと、手にしていた皿を地面に音を立てて置いた。
無機質なプラスチック皿の上には、不格好なサンドイッチが三つ並んでいる。
何かマズそう……。
でも、今はそんなこと関係ない!!
杏奈は素早くしゃがみこんで、サンドイッチに顔を近づけようとした。
「待ちなッ! 誰が食べていいって言ったの?」
突然声を荒げた女に、ビクッとして身を引く。
いただきます、とでも言えば良かったのだろうか。
杏奈は空腹特有の苛立ちを抑えながら、女を見上げて懇願した。
「お腹が空いて死にそうなの。食べていいでしょ? お願い……!」
「……フン。勝手に死ねば良いのに」
腰に手をあてがいながら、敵意を剥き出しにしてくる女。
こんなことなら、まだあのピエロの方がマシだと思った。