秘密実験【完全版】
女の敵は女、と言うことなのか。
お預けを食らった子犬のような気分で、おかめ女を恨めしげに見上げる。
「……アタシの手作りだから、よーく味わって感謝しながら食べなよ。いいね?」
「うんっ」
「“うん”じゃないッ!」
「……はい。いただきます」
杏奈は小さな声で言い直すと、プライドをかなぐり捨てて犬食いを始めた。
しかし──
一口頬張ったところで、猛烈な吐き気に襲われた。
「……うっ」
思わず、えずきそうになる。
パンはパサついてカビ臭いし、中身の野菜もベチャベチャしていて新鮮さがない。
そして何より、酸っぱいような苦いような味つけが最悪だった。
何これ……人間の食べる物じゃないでしょ?
「ほらぁ~。口が止まってるよ? 全部食べなさいよ、残したら蹴飛ばすからね!」
「痛っ……!」
女がそう言いながら、ヒールの先で杏奈の踵を軽く踏みつけてくる。
口の周りをマヨネーズで汚しながら、食べ続けるしかなかった。
「うぐっ……」
「ほらほら、あと二つ残ってるよ? さっさと食べなさいよ!」
得体の知れない緑色のソースがはみ出しているサンドイッチに、恐る恐る顔を近づける。
思い切ってかじりつくと、鼻にツンとくる刺激臭と甘ったるい味が口の中で混ざり合った。
ワサビといちごジャムのサンドイッチだった。
「うっ……おえっ」
杏奈はどうしても飲み込めず、皿の上に吐き出した。