秘密実験【完全版】



 大丈夫……。


 こんなの、ただの嫌がらせ。


 寝たら忘れるわ、きっと。


 そう自分に言い聞かせ、“声”をなかったものにしようとする。


 しかし、頭の片隅でぐるぐる回っているのも事実だった。


 しばらくして扉が開き、ピエロ男が姿を現した。


 おかめの女ではないことに少し安堵してしまう。



「木南杏奈サマ、消灯のお時間でぇーすっ」


 道化らしく明るくおどけた口調で言いながら、ズカズカと部屋に入って来る。


 手には黒いアイマスク。


 反射的に身構える杏奈だったが、余計な抵抗はしなかった。



「ぐっすりおねんねしろよ? 勝負はまだ始まったばかりだからな……」


 そう言い残し、ピエロ男は口笛を吹きながら部屋から出て行った。


 アイマスクをさせられた杏奈は、冷たい床に身体を縮めるようにして横たわりながら思考を巡らせる。


 “勝負”って言った……?


 いったい何の勝負?


 嫌がらせや脅しは受けてるけど、命に関わるような危険なことはされてない。


 ……今のところは、だけどね。


 緊張感や不安感が徐々に薄れていき、杏奈は眠気を催して小さくあくびをした。


 密室だからじんわりと蒸し暑い。


 両手が使えないため、額に浮かぶ汗を拭うことも出来ない。


 浅い眠りから何度も目が覚めては、寝返りを打つ。


 そのたびに、足首の鎖がジャラジャラと音を立てた。


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