秘密実験【完全版】
ふいに、杏奈は目を覚ました。
バンドが緩かったせいで、アイマスクは外れていた。
暗闇の中にぼんやりと浮かび上がる、青白い人影……。
──誰?
目を凝らすと、それが白い服を着た長い髪の女だと分かった。
俯きがちのまま、杏奈の足元に佇んでいる。
じっと身じろぎもせず、息遣いすら聞こえない。
まさか……幽霊!?
「きゃああああっ!」
杏奈は悲鳴を上げて、身体を起こした。
そう言う類が苦手で、遊園地のお化け屋敷でもキャーキャー騒いでいたのである。
遊園地……。
悠介、今何してるのかな?
彼氏の顔を思い浮かべながら、恋しさを募らせた。
杏奈よりも痛い目、苦しい目に遭っているのは間違いない。
いつの間にか、女の姿は消えていた。
寝ぼけていただけなのだろうか──?
「……おい! 何の騒ぎだよ!?」
慌ただしく扉が開き、ピエロ男の驚きと怒りが混ざった声が室内に響いた。
杏奈の悲鳴に対してだろう。
「ゆ、幽霊が……いたのっ」
「ハァ!? ふざけんなよ、てめー。せっかく気持ち良く寝てたのに、お前の声で椅子から転げ落ちそうになったじゃねーか」
不満げに唇を尖らす男は間違いなくピエロ男なのだが、ピエロの面を被っていなかった。
慌てるあまり、忘れてきたのだろう。
暗くてハッキリとは見えないが、目元は細く吊り上がっていてキツネのようだった。
お世辞にも美形とは言えない。
「本当だもん! ……いいわ、信じてくれないなら」
「てめっ……。哀れみを含んだ目で、俺を見やがったな? クソガキが、犯すぞ!」
ピエロ男は子供じみた戯れ言を吐き散らすと、部屋の扉を叩きつけるようにして出て行った。