秘密実験【完全版】





 モニター画面が並んだ部屋で、彼は煙草を吸いながら椅子に座っていた。


 長い前髪の隙間から覗く瞳は、静かな怒りの色を帯びている。


 紫煙とともにため息を吐き出したときだった。



「たっだいまぁ~!」


 耳障りな甲高い声とともに、勢い良く開いた扉から女が入ってきた。


 おかめ面を外したその顔には、いわゆるギャルメイクが施されている。


 顔は並みだが、スタイルは上。


 手には、木南杏奈の脱いだ洋服と下着を持っている。


 彼の命令通りに……。



「中野」


「はぁ~い?」


 低い声で呼びかけると、女は飼い主に忠実な犬のように何の躊躇いもなく近づいてきた。


 彼は椅子をくるりと回すと、無言のまま女の太ももを容赦なく蹴った。



「痛ぁっ! ……ま、真?」


「誰が、暴行を加えろって指示をした?」


「っ……! そ、それは……。あの女が言うこと聞かないから!」


 中野と呼ばれた女は太ももを押さえながら、必死に弁解をした。


 あれは、ただのお仕置きよ。


 暴行なんかじゃ……。



「今度、手を上げてみろ。お前にも同じことをしてやる」


「そんな……っ」


 愛する彼に眼光鋭く言い放たれ、後頭部を鈍器で殴られたほどのショックを受けた。


 しかし、自分たちは恋人でも何でもない。


 洋服の下には、彼の“愛情表現の裏返し”による痣や傷痕が数多く隠されている。


 今新たに、太ももにも刻まれた。


 都合のいい女だと分かっていても、もう彼から離れることは出来ないの……。


 中野未来は、目の前の男に心身ともに依存しきっていた。


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