秘密実験【完全版】



「いやっほー! 仮眠してきたぞー、真」


 扉が開くと同時に、キツネ顔の男がおどけたように言いながら室内に入って来た。


 しかし、重苦しい空気が漂っているのを察知して声のトーンを落とす。



「……何かやらかしちまったのか? 中野ちゃん」


「うるさいっ!」


 未来は声を荒げて男の手を振り払うと、靴音を立てながら部屋から出て行った。



「ひでぇ……。仮にも俺、先輩なんですけど」


「額田」


「な、何だよっ? 中野ちゃんが勝手に怒り出したんだぞ」


「アイツはどうでもいい。……二人はまだ着かないのか?」


 モニターの前に陣取る彼に冷たく見据えられ、チンピラ気質の額田は視線を落ち着きなく泳がせた。


 この男にだけは、どうしても頭が上がらない。


 それには、れっきとした理由があるのだが。



「あぁ……、あと三十分くらいで着くって携帯に連絡があったぜ。野郎二人でドライブとか、ご愁傷様って感じだけどな!」


 額田はそう言って、噛んでいたガムをティッシュに吐き出した。


 もちろん、いつもなら道端に吐き捨てるタイプである。



「二人が来るまで、お前が相手になってやれ」


「おっ! あの生意気なメスガキか?」


「……違う。男の方だ」


 その言葉を聞いた途端、額田のテンションが一気に下がる。


 野郎の相手なんかしたくねェ……。



「手出しをしてもいい」


「マジか? サンドバックにしてやらぁ!」


「好きにしろ。……ただし、死なせたら殺す」


 彼のあながち冗談とも思えない発言に、額田は顔に卑しい笑みを浮かべたまま凍りついた。


< 32 / 176 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop