秘密実験【完全版】
「いやっほー! 仮眠してきたぞー、真」
扉が開くと同時に、キツネ顔の男がおどけたように言いながら室内に入って来た。
しかし、重苦しい空気が漂っているのを察知して声のトーンを落とす。
「……何かやらかしちまったのか? 中野ちゃん」
「うるさいっ!」
未来は声を荒げて男の手を振り払うと、靴音を立てながら部屋から出て行った。
「ひでぇ……。仮にも俺、先輩なんですけど」
「額田」
「な、何だよっ? 中野ちゃんが勝手に怒り出したんだぞ」
「アイツはどうでもいい。……二人はまだ着かないのか?」
モニターの前に陣取る彼に冷たく見据えられ、チンピラ気質の額田は視線を落ち着きなく泳がせた。
この男にだけは、どうしても頭が上がらない。
それには、れっきとした理由があるのだが。
「あぁ……、あと三十分くらいで着くって携帯に連絡があったぜ。野郎二人でドライブとか、ご愁傷様って感じだけどな!」
額田はそう言って、噛んでいたガムをティッシュに吐き出した。
もちろん、いつもなら道端に吐き捨てるタイプである。
「二人が来るまで、お前が相手になってやれ」
「おっ! あの生意気なメスガキか?」
「……違う。男の方だ」
その言葉を聞いた途端、額田のテンションが一気に下がる。
野郎の相手なんかしたくねェ……。
「手出しをしてもいい」
「マジか? サンドバックにしてやらぁ!」
「好きにしろ。……ただし、死なせたら殺す」
彼のあながち冗談とも思えない発言に、額田は顔に卑しい笑みを浮かべたまま凍りついた。