秘密実験【完全版】



「ハァ……」


 静まり返った狭い部屋に、ため息だけが響く。


 今が昼だか夜だか分からない。


 分かったところで、どうしようもないのだが。


 過ぎゆく時間の中で、杏奈は立っては座り、狭い室内を行ったり来たりを繰り返していた。



「悠介……」


 思い出したように彼氏の名前を呟く。


 顔を見たいような、見たくないような──そんな複雑な気分だった。


 彼の痛々しい姿を目にするのは辛い。



「席に着けー! 授業始めるぞォ~!」


 突然扉が開き、ピエロ男が大股で入って来た。


 なぜか教師のような口調と台詞での登場に、杏奈は冷ややかな視線を送る。



「……」


「笑えよクソがぁ! 恥ずかしいだろ、チクショー」


「今度は何? ……もう帰りたい」


 目を伏せながら、泣き言を呟く杏奈。


 正確には「帰りたい」ではなく、「ここから出たい」なのだが。



「……なぁ、おい。今からお前に面白いモン見せてやるよ」


 男はピエロ面の下で、ニヤリと怪しく笑った。


 何か含みのある言い方に、嫌な予感が頭をもたげる。



「どういう意味……? 悠介に何かするんでしょっ!?」


「おっ。なかなか鋭いな、杏奈チャンは。くくくっ……! まァ、見とけよ」


 テレビの電源を入れると、男は鼻歌混じりに部屋から出て行ってしまった。


 残された杏奈は、砂嵐の画面をぼんやり見つめることしか出来ない。


 悠介……


 何で私たちなんだろうね?


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