秘密実験【完全版】



 爽やかでイケメンのはずの悠介が、今は餌づけされた雛鳥のように頼りなく見える。


 その光景は見るに耐えず、滑稽ですらあった。


 奴らのせいだと頭では分かっているのに、悠介に対する気持ちが冷めていくのを感じた。


 人間は身勝手な生き物だ。



『あーもう、チマチマ食ってんじゃねーよ。面倒くせぇな!』


『……ううっ、ぐ……!』


 痺れを切らした男が悠介の口にパンの残りを無理やり押し込む。


 パンを喉に詰まらせたのか、悠介は目を白黒させながら苦しそうに顔を歪めた。



『み、み、水っ……!』


『あぁ? てめー、誰に物言ってんだよ!』


『うぐぉああッ!!』


 男に股間を蹴り上げられ、奇声を上げながら悶絶している。


 彼氏のぶざまな姿を目の当たりにして、杏奈は言葉なく立ち尽くしていた。



『……お願いだ……ッ。トイレに行かせてくれ!』


『だーかーらー。それが人に物を頼む態度なのかよ?』


『……っ、トイレに行かせて下さい! お願いします!!』


 今まで聞いたこともない、悲痛で情けない声で必死に訴える悠介。


 生理現象にはどんな人間も勝てない。



『聞いたか、カノジョ! 彼氏が漏れそうなんだとよォ~? ヒャハハハハ』


 カメラ目線で下品な笑い声を立てる男に我慢できず、杏奈は自らの意思でテレビの電源を消した。


 部屋に奇妙な静寂が訪れ、落ち着かない気分に陥る。


 だが、もう後には引けない。


 杏奈はまだ知る由もなかった。


 この衝動的な行動が、後に災いを招く羽目になることに……。


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