秘密実験【完全版】
そう決意を固めたとき、唐突に扉が開いた。
ピエロ男が口笛を吹きながら、呑気な様子で現れた。
「どうだ、面白かったろ? ククッ……!」
「悪趣味よ。作った人の顔が見てみたい」
「世の中にはな、こういう仕事もあるってこった。ビジネスだよ、ビジネス!」
DVDを取り出しながら、笑いを含んだような声で言う男。
……殺人のビデオを作ることがビジネス?
そんなこと信じられない。
「まっ、その顧客であるうちのリーダーはさらなる変態だけどな? ……いけね! こんなこと言ったら、また怒られちまう」
男が頭を掻きながら、蛇のようにチロリと舌を見せる。
そして、杏奈の手錠を椅子から外すと、再び手錠をかけ直した。
「……お腹空いたんだけど」
「俺に言うな。飯とフロの担当は、中……あのおかめチャンだ」
「……」
空腹を訴える杏奈は、黙り込むしかなかった。
女の敵は、女。
姿の見えないリーダーの企みが、手に取るように分かる。
同性には色目など通用しない。
このピエロは馬鹿で、当てになりそうもないし……。
杏奈は目の前の男を見上げ、心の中で悪態をついた。
他に仲間はいないのだろうか?
私の“策略”にハマってくれるような、単純な男は……。
ピエロ男が出て行った後、杏奈は深々とため息を吐き出した。
時間と日にちの感覚が全くなく、あらゆる制限の中で生かされている。
人間らしい生活とはかけ離れている。
こんなことが続けば、精神的におかしくなるのも時間の問題だろう。
もしかしたら、それこそが奴らの狙いかもしれないが……。