秘密実験【完全版】
あっと言う間に八月に突入し、約束の日がやって来た。
杏奈は胸を弾ませながら、太陽が昇る前に自宅を出た。
昨夜は楽しみのあまり、興奮してなかなか寝つけなかった。
胸元まで伸ばした栗色の髪をポニーテールにして、動きやすい軽装で待ち合わせ場所に向かう。
同じくカジュアルな服装の悠介を見つけ、手を振りながら駆け寄った。
今日行くところは海ではなく、杏奈が提案した県境に位置する大型遊園地。
家族連れやカップルなどでひしめき合う電車に揺られ、目的地にたどり着く前から少し疲れてしまった。
しかし、十七歳の二人は輝かしいエネルギーに満ち溢れている。
遊園地に着くと、時間を惜しむように次々とアトラクションを楽しんだ。
「好きだよ、杏。これからもずっと」
「うん。私も……悠介が好き」
観覧車の中で熱く見つめ合い、どちらからともなく顔を近づける。
寄り添う二人は今、自分たちが世界で一番の幸せ者だと信じて疑わなかった。
しかし、楽しい時間は刻々と過ぎてゆく。
行きはヨイヨイ、帰りはコワイ……。
空が夕焼けに染まる頃、閉園時間が近づいてきた。
帰りの電車に揺られながら、杏奈は遊び疲れて悠介の肩にもたれかかって眠ってしまった。