秘密実験【完全版】
それから、しばらく放置された。
どれくらいの時間が経ったか分からない。
杏奈は空腹と戦いながら、じっと床に座り込んでいた。
やがて扉が開き、おかめ面の女が入って来た。
手には白いプラスチック皿を持っている。
「……フン! お待ちかねのおまんまタイムだよ」
女は意地悪く笑いながら、音を立てて皿を床の上に置いた。
それを見た瞬間、杏奈の顔色が変わる。
うそでしょっ……!?
皿の上に、細切れにしたピーマンが大量に乗っていた。
よりによって、杏奈の大嫌いなピーマンが。
「……っ」
「どうしたの? さっさと食べなさいよ。お腹空いてるんでしょ? フフフッ」
女の笑い声が頭上に降り注ぐ。
大嫌いなピーマンでも、食べ物は食べ物だ。
もはや迷っている暇はない。
空腹が紛れるなら何でも良い、と自棄になる。
「……い、いただきます」
杏奈は小声で言うと、皿に顔を寄せて犬食いをした。
鼻呼吸をやめて、ピーマンを小刻みに噛んですぐに飲み込む。
独特の苦味が口の中に広がり、吐き出しそうになった。
「うっ……!」
「あれェ~? アンタ、もしかしてピーマン苦手なんじゃないの?」
「そ、そんなことな……げほっ、げほっ!」
あまりの不味さに、顔をしかめながら咳き込んでしまった。
涙目で苦しそうに呼吸を繰り返す杏奈を見下ろし、女が嬉しさを隠しきれない様子で口を開く。
「……決まりだね。これからも、ピーマン食べ続けさせてあ・げ・る」
「いッ……いやっ! それだけはやめて!」
「うるさい! もう決まったんだ、諦めな。餓死するよりマシでしょ?」
女が杏奈の顎を持ち上げながら、諭すように言い含める。