秘密実験【完全版】



「中野未来、ただいま戻りましたぁ~」


 明るい声とともに扉が開き、敬礼のポーズを取りながら女が姿を現した。


 それに対し、彼は右側の眉を軽くつり上げただけだった。


 “冷血”


 そんな言葉が当てはまりそうな男だが、この女──中野未来は彼に心酔していた。



「真の読み、当たったね! あの女、ピーマンが死ぬほど嫌いだったみたい。すごいよ、真!」


 未来は興奮と嬉しさのあまり、早口で言った。


 テーブルに肘をついてモニターを眺めていた彼は、ため息とともに一言だけ吐き出した。



「……うるさい」


「もう、つれないなー真ったら! ねぇ、今度からピーマン出すんでしょ?」


 彼に冷たくあしらわれても、決して怒ったり泣いたりはしない。


 たとえ心が傷ついたとしても。



「ショック死でもされたら面倒だから、もう出さない」


「えっ……? だって、精神的に苦しめるんでしょ? だったら──」


「嫌いな食べ物を無理やり食わせるのは、肉体的苦痛にもつながる。よって却下」


 未来の顔も見ずに言い放つ。


 ……何よ。 何よ何よ何よ!


 せっかく、ピーマン地獄を味わわせてやろうと思ったのに。


 あの女、マジでムカつく!!


 未来の目は憎悪と嫉妬に燃えて、怒りの矛先は彼ではなく杏奈に向けられた。


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