秘密実験【完全版】
やっと曲が終わったかと思うと、また別の似たような曲調が流れ始めた。
無音も不安になるが、爆音は頭が痛くなるし聴き疲れる。
これって嫌がらせ……だよね。
しかし杏奈はどうすることも出来ず、とめどなく流れ続けるヒップホップ音楽を聴くしかなかった。
自分の好きな音楽でさえ、ずっと聴き続けると言うのは無理だ。
「ハァ……もういいよ」
そんな呟きも、大音量の音楽に掻き消されてしまう。
何時間も、同じような曲が途切れることなく流れ続けた。
不快感と疲労感に襲われ、グッタリと壁にもたれかかる杏奈。
やっと音楽が止まり、しばらくして扉が開いた。
「……どうだ? 良かっただろ」
ゾンビ男が部屋に入るや否や、感想を求めてきた。
もちろん、良いはずがない。
しかし杏奈は顔をひきつらせながら、曖昧に頷いた。
「え……えぇ、まあ」
「本当か? 怪しいな。まだまだ、オススメの曲は沢山あるんだが……。リーダーのストップが入っちまった」
ゾンビ男が不服そうに言う。
このときばかりは、リーダーとやらに感謝を覚えた。
「……今からアンケートを取る。口頭で答えろ」
「アンケート……?」
「無駄なお喋りは不要。……一番、好きな食べ物は?」
男は紙に目を落としながら、事務的な口調で言った。
一番好きな食べ物?
何か裏があるのかな……。
「……ドーナツ」
害はないだろうと思い、杏奈は正直に答えた。
親切にドーナツを出してくれるとも思えないが。