秘密実験【完全版】



「……次。自分のチャームポイントは?」


 男が大きな身体を小刻みに揺らしながら言う。


 今にもヒップホップダンスを踊り出しそうな雰囲気だ。


 チャームポイント?


 ……そんなの知ってどうするんだか。



「髪」


 杏奈は一呼吸置いて、無愛想に答えた。


 自慢のロングヘアーは、ろくにシャンプーも出来ずに今や艶を失いつつある。


 それを結構ストレスに感じていた。



「……じゃあ次。一番大切な人は?」


 男はスニーカーの爪先でリズムを取りながら、紙に書いてある質問事項を読み上げる。


 嫌な質問……。


 真っ先に家族の顔が思い浮かぶが、あの三人の中から選ぶのは不可能だった。


 杏奈は少し考えて、無難な答えを口にした。



「彼氏かな……」


「遠藤悠介のことだな?」


 念を押すような口調に、杏奈は引っかかるのを覚えた。


 この質問自体、“罠”だったら……?


 しかし、一度言った言葉は取り消せない。



「次。……殺されるのと、自殺。どっちの方が嫌だと思う?」


「……」


 杏奈は唇を噛みしめて、考えるような顔つきになる。


 この質問の意味は……何?


 正直に答えるべきか。



「自殺の方が嫌だわ」


 扉を背にして立つ男を見上げながら、杏奈は自分の心に正直に答えた。


 自殺なんか、精神のおかしい人がするものよ。


 私は、まだ正常のはず……。


 自殺するくらいなら殺された方がマシ。



「次だ。……一番、苦しそうな自殺方法は?」


 男の投げかけた質問に、杏奈は真剣に考えてしまう。


 苦しくない自殺なんてあるの?


 溺死とか、焼死は特に苦しそう……。


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