秘密実験【完全版】



 しばらく考えてから、杏奈は口を開いた。



「餓死……」


「……じゃあ、次。彼氏の身体で、一番好きな部分は?」


 杏奈の答えを書き取りながら、男は機械的に質問を進める。


 無駄話が嫌いなのだろう。


 ピエロ男とは真逆の性格のようだ。



「……目、かな? 大きくてキラキラしてるもの」


 悠介のつぶらな瞳を思い出しながら、杏奈はほんの少し表情を和らげる。


 今も苦痛を味わわされているのかもしれないと思うと、呑気にアンケートに答えていることに後ろめたい気持ちになった。



「最後の質問だ。……一つだけ、飲食物以外の物資が貰えるとしたら何を望む?」


「……」


 杏奈は今までの質問以上に、難しく考え込んだ。


 飲食物以外に欲しいもの?


 毛布か、ベッドか、それとも……。



「時計は?」


「ダメだ。ラジオと武器になりうるものも」


 男は紙を見ながら答える。


 制限の範囲が広い。



「じゃあ……ベッド」


「武器になりうるからダメだ」


「ならないでしょ!? ……ハァ。毛布でいい」


 反論しても無駄だと自制して、無難な答えを出した。


 果たして、本当に毛布を貰えるのだろうか。



「……以上。アンケートにかかった時間、四分二十五秒だ」


 男が腕時計を見ながら、無表情に言い放つ。


 時間を計っていたとは気づかなかった。



「四分も辛いだろうなァ……彼氏は」


「えっ……? どういう意味よ。悠介に何するつもりなの!?」


 男の意味深な呟きに、顔を強ばらせながら詰め寄る。


 しかし、その答えは得られず、再び扉が閉ざされた。


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