秘密実験【完全版】
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音もなく扉が開き、ゾンビのマスクを被った大柄な男が無言で入ってきた。
モニター前の椅子に座っていた額田は、待ってましたとばかりに振り返る。
「お疲れー、拓ちゃん! あの女、すげえムカつくだろ!?」
ピエロ男・額田は小腹が空いて、コンビニで調達してきたスナック菓子を食べていた。
「……そうッスか? うちの紅一点から見たら、だいぶ大人しいッスけど」
「あー、ダメダメ! 中野ちゃんと比べるなよ、拓馬。あのコは特別ヒステリックだから」
首をすくめながら否定する男に、額田は苦笑混じりに言った。
今、中野未来がこの部屋にいたら半殺しにされてるだろうな……俺。
うわ、マジ怖え!
「……未来は、ああ見えても女らしい一面ありますよ?」
「お。何だ? お前、中野ちゃんに……」
「ただの友達ッス。変な勘ぐりは止めて下さいよ」
ゾンビのマスクをソファーに投げながら、男が素っ気なく言い放つ。
そのとき扉が開き、長袖の黒いシャツを着た男が部屋に入ってきた。
ゾンビ男の厳つい顔に緊張の色が浮かぶ。
「お帰り、真! ぐっすり眠れたかァ?」
「……額田。この部屋で飲食するなと言っただろ」
男はスナック菓子の袋に気づき、不機嫌そうに目を細めた。
相変わらず、グチグチうるせぇ奴だな……。
まっ、俺は利口だからコイツに逆らったりしないぜ?
額田は苦々しい心中とは裏腹に、おどけた表情で両手を合わせた。
「スマン! 監視してたら、小腹が減っちまってさ……へへっ」
「……お前のようなふざけた奴が、規律を乱すんだ」
男は低く呟きながら、グシャリと菓子袋を握りつぶした。