秘密実験【完全版】
うわ……静かに怒ってるよ。
コイツ、高校時代からこんな感じだったよなぁ。
額田は肩をすくめながら、男の怒りを黙ってやり過ごした。
「倉重」
男は額田から視線を逸らすと、厳つい顔のゾンビ男の名字を呼んだ。
倉重拓馬──それが彼のフルネームである。
「はい」
「被験者Aの実験は終わったか?」
「……はい。これが結果です」
倉重拓馬がおずおずと白い紙を差し出す。
それを無言で受け取ると、男は紙に書かれた文字に目を通した。
……アンケートなんか取って、何しようって言うのかねぇ。
額田は頭の上で両手を組みながら、あくびをかみ殺した。
時計をチラリと見やると、昼の時間が迫っていた。
昼メシ、何食うかなー?
……カップラーメンで済ますか。
「倉重。毛布を差し入れてやれ」
男は紙から目を離すと、手持ち無沙汰な様子で突っ立つ倉重拓馬に指示を出した。
拓馬は短く「はい」とだけ返事をし、部屋から出て行った。
「……額田。お前はドーナツを買って来い」
「はぁ!? 何で俺が、あの女の好物を買わなきゃいけねーんだよ?」
額田は椅子から飛び起きて、口を尖らせながら抗議する。
盗み見たアンケートに書かれた少女の好物であるドーナツを、まさか買いに行かせられるとは夢にも思わなかったのだ。
「いいからさっさと行って来い」
「痛っ! ……へーへー、分かりましたよっと」
車のキーを投げつけられ、額田はムッとして部屋を出た。
真め……、俺をアッシー扱いしやがって。
それにしても、あのアマ腹立つなー!
額田は顎を突き出し、ポケットに手を突っ込みながら大股で歩いた。