秘密実験【完全版】
第三章



 アンケートに答えた通り、毛布が支給された。


 杏奈はそれを床に敷き、その上に座っていた。


 ハァ……。


 自分が人間じゃなく、ペットにでもなった気分だわ。


 飼い主に虐待されるペットよ!


 杏奈は何もすることがないので、ネガティブなことばかり考えてしまう。


 暴力を振るわれるのは嫌だけど、何もせずにぼんやりするだけの生活も辛い。


 本当に、奴らの考えていることが読めない。


 ピエロ男の言う“リーダー”とやらは、いつこの部屋に来るのだろうか?


 杏奈は頭の中に化け物の姿を思い浮かべて、不安と恐怖に駆られた。


 ……そんなわけないよね?


 リーダーも、ただの人間。


 きっと、見た目は貧弱そうな優男よ。


 監禁されてから、ピエロやゾンビやおかめと言った作りものの“顔”しか見ていない。


 バスルームにあるはずの鏡が取り外されていて、杏奈は自分の顔すら見ることが出来なかった。


 これも、“リーダー”の策略……?


 そのとき扉が開いて、ゾンビ男がヌッと現れた。


 相変わらず無愛想である。



「……腹、減ってるか?」


「え? ……うん」


 問いかけられ、杏奈は目線を落としながら答えた。


 あの不味いピーマン炒めを食べさせられてから、もう半日は経っているだろう。


 しかも吐き出したから、胃の中は空っぽ状態である。



「お前の好きなドーナツだ」


 そう言って、男は白い皿を床に置いた。


 ……ドーナツ?


 杏奈は嬉しさよりも、疑念を抱いた。


 アンケートに答えた好きな食べ物が今、目の前にある。


 空洞のない、砂糖をふりかけた美味しそうなふんわり系のドーナツ。


 毒が入ってたりして……。


 杏奈はそう思いながらも、ごくっと生唾を飲み込んだ。



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