秘密実験【完全版】
覆面の男は、まるでホテルマンのような口調で言った。
二つの穴から覗く大きな目で、まばたきもせずに杏奈を見つめている。
コイツが“調理”したんだ……。
「ふざけんなバカ!」
杏奈は苛立ちから、思わず暴言を放った。
小柄でひょろ細いこの男は、あまり威圧感がない。
すると、男はわざとらしく目を見開いた。
「あららら。女性がそんな言葉遣いをしたらいけませんよぉ?」
優しく諭すと、杏奈の前に緑色の液体が入ったコップを置いた。
……何これ?
無言でコップを見つめ、訝しげに男を見上げる。
「飲めってこと?」
「はいっ! ストローでズズッとどうぞ」
歯切れ良く返事をする男。
飲めと言われても、こんな得体の知れないものを飲めるわけがない。
鼻を近づけて匂いを嗅いだ杏奈は、思わず顔をしかめた。
「何か臭いんですけど……。何なのこれ」
「それは、バッタとカマキリのフレッシュジュースです」
「……はぁ!?」
したり顔でさらりと言いのける男に、杏奈はぐっと眉を寄せた。
また虫かよ。
そんなツッコミが口から飛び出しそうになる。
「飲めるわけないでしょ!」
男を睨みながら、コップを蹴飛ばしたい衝動に駆られた。
虫のジュースなんて……イカれてる。
「でも、メロンソーダで割ってますよ? まぁ、僕も飲みたくありませんけど。あはは」
男は半笑いになりながら、テレビの電源を入れた。
画面に映ったのは、ピエロ男のアップ。
その途端、嫌な予感がした。
「こちら、被験者Aの部屋です。お願いしまーす」
『おー。んじゃ始めるか!』
ピエロ男は気軽な口調で言うと、後ろへ下がっていく。
そこには、やはり悠介がいた。
目隠しと猿ぐつわをされ、回転椅子に座らされている。