秘密実験【完全版】
倒れた拍子にコンクリートの床に頭を打ちつけたらしく、悠介は動かなくなった。
気絶したのか、それとも……。
「いやぁ、悠介っ!」
「……大丈夫。気を失ってるだけでしょう」
死んでしまったのではないかと言う不安から叫び声を上げる杏奈に、覆面の男は落ち着き払った口調で言った。
確かに、よく見ると胸が微かに上下している。
良かった、生きてる……。
『おいコラ、起きろ!』
ピエロ男がサンダルを履いた足で、悠介のわき腹を蹴飛ばす。
すると、悠介は身をよじって避けようとした。
『早く立てよ、この野郎ッ』
『ううっ……!』
髪の毛を掴まれ、無理やり立たされる悠介。
ほとんど表情は見えないが、痛みに顔を歪ませているだろう。
フラフラしながら立ち上がった彼は、ピエロ男にアイマスクを外された。
『……よし。今から質問をするからな。首を振って答えろ』
ピエロ男はそう言って、手元の紙に目を落とす。
杏奈と覆面の男は、並んで画面を見つめていた。
『今からお前の彼女である木南杏奈の髪をバリカンで刈り、丸坊主にしようと思うんだが』
「えっ……? い、嫌よ!!」
ピエロ男の言葉に、杏奈は過敏に反応した。
丸坊主なんてあり得ない。
想像しただけで身震いしそうになる。
『ひゃははは! だってお前、アンケートで自分のチャームポイントは髪だって答えたろ? バカめが』
ピエロ男が興奮したように早口でまくし立てる。
杏奈は返す言葉もなく、画面の中の奴を睨むことしか出来ない。
『……さて、そこで質問です。彼女が丸坊主にされるのに賛成ですか?』
ピエロ男がわざとらしく丁寧な口調で問いかける。
一呼吸置いて、悠介は首を横に振った。
その目はまだ、以前のような輝きを失っていない。