秘密実験【完全版】
悠介は優しいな……。
画面の中の彼を見つめながら、ホッと胸をなで下ろす。
とにかく、丸坊主は嫌だ。
『……じゃあよ。彼女を丸坊主にしない代わりに、お前の片目を潰していい?』
『……っ!』
ピエロ男の辛らつな言葉に、目を大きく見開いて驚きを露わにする悠介。
なんて卑怯な……!
あまりにも酷な交換条件に、杏奈は絶句した。
「これも、リーダーの指示です。……丸坊主にしますか?」
隣りで黙っていた覆面男が静かに口を開く。
しかし、杏奈は頷くことが出来なかった。
彼氏のピンチだと言うのに、我が身のことしか考えられない。
最低ね、私……。
髪の毛なんかすぐに伸びるのに、どうして受け入れられないんだろう?
『ぷぷっ……。お前の彼女、正直者だな? てめーの目なんか潰れちまえってよ!』
ピエロ男が含み笑いをしながら、悠介を冷ややかに見下ろす。
すると、悠介は大きな目で画面を見つめた。
私を見てるの……?
目が合ったような錯覚に陥り、一瞬ドキリと心臓が音を立てる。
「……あなたの彼氏、目がすごく綺麗ですね」
「……」
嫌みのない男の言葉にも、杏奈は返事が出来なかった。
何だか息苦しい。
罪悪感から来る心痛なのだろうか?
『さぁ、どうする──』
「……待って! 私の髪を切って! ね、それでいいでしょ?」
杏奈は声を大きくして、ピエロ男に聞こえるように言った。
しかし──
『おいおいおい。俺は、コイツに聞いてんの! 偽善女は引っ込んでろや』
「なっ……」
あっさりと一蹴されてしまい、なす術なく立ち尽くす。
隣りの覆面男が杏奈をチラリと見やるが、すぐに画面に視線を戻した。