秘密実験【完全版】



『どうだ。彼女に助けてもらうか? ん?』


 ピエロ男が悠介に顔を近づけながら、楽しそうに声を弾ませる。


 ……ズルい聞き方。


 そう思っても、ただ黙って見ていることしか出来ない自分がもどかしい。



『……っ』


 悠介は少し間を置いた後、首を横に振った。


 返事は“ノー”。


 さすがのピエロ男も、すぐには反応出来ないようだ。



『……マジかよ? 格好つけるんじゃねーぞ、おい。目玉潰されてーのかよ!?』


 苛立ちを含んだような声で言いながら、悠介の目にボールペンの先端を近づける。


 よく見ると、彼の目は少し充血していた。


 睡眠不足なのか、泣いているのか……。


 杏奈は胸が痛むのを感じながら、悠介の様子を固唾を飲んで見守った。



『……まぁ、潰すって言っても催涙スプレーをかけるだけだけどな?』


 そう言って、スプレー缶を手にするピエロ男。


 催涙……。


 本当に潰されるよりは、マシだよね。


 杏奈が安心して、身体の力を抜こうとしたときだった。



『座れよ』


 起こした回転椅子に座るよう、低く鋭い声で命じるピエロ男。


 抵抗の選択肢すらない悠介は、静かに椅子に腰を下ろした。


 そして、身体を縄で縛られ固定された。


 暴れさせない為だろう。


 シューッ!


 突然、ピエロ男がスプレー缶を噴射させた。


 霧状の液体が悠介の左目に直撃する。



『ううッ……!』


 反射的に目を閉じるが、ピエロにこじ開けられてしまう。


 そして、さらにスプレーを吹きかけられた。



『うごぉおおお……!!』


 十秒ほど催涙スプレーを受け続けた悠介は身体をよじりながら、くぐもった悲鳴を漏らした。


 真っ赤になった左目から、大量の涙が溢れ出す。


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