秘密実験【完全版】





 カチャ……


 扉がゆっくりと開き、小柄な男が室内に入ってきた。


 坊主頭に、優しげな顔立ち。


 手には覆面マスクを持っている。



「……ただいま戻りました、真さん」


 男は緊張気味な面持ちで言うと、モニター画面の前に座るリーダーに近づいた。


 長袖の白いシャツを着た、男にしては華奢な後ろ姿を見つめながら返事を待つ。



「森」


 リーダーが低い声で、男の名字を呼ぶ。


 森は思わずドキリとして、背筋を伸ばした。



「は、はいっ……!」


「……余計なお喋りは無用だと言ったはずだ」


 くるりと椅子を回転させた彼は、長い前髪の隙間から眼光鋭く睨みつけてきた。


 実際は睨んでなどいないのかもしれないが、その目つきは森を萎縮させるのに十分だった。


 ──マズい、怒ってる……。


 森の顔から血の気が引いていく。



「いや、あの。……ご、ごめんなさい! 以後気をつけます!」


 うまい言い訳が見つからず、慌てて頭を下げて謝った。


 彼はその様子を無言で見つめていたが、興味を失ったかのようにモニター画面に向き直った。


 ……ふぅ。良かった。


 何だかんだ、真さんは優しい。



「昼食を摂ったら、また戻って来い」


「あ、はい」


「……俺が信頼してるのはお前だけだ」


 尊敬するリーダーからの言葉に、森は直立不動で固まった。


 頭の中で反芻し、嬉しさが込み上げてくる。



「ありがとうございますっ! 真さん、僕も……」


「さっさと行け」


 犬を追い払うような仕草をされ、森は頭を下げて部屋から出た。


 森耕太郎、十八歳。


 監禁された可愛い少女に心が揺らぎそうになったが、やはり彼にとっては恩人とも言うべき男の存在の方が大きかった。



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