秘密実験【完全版】
*
カチャ……
扉がゆっくりと開き、小柄な男が室内に入ってきた。
坊主頭に、優しげな顔立ち。
手には覆面マスクを持っている。
「……ただいま戻りました、真さん」
男は緊張気味な面持ちで言うと、モニター画面の前に座るリーダーに近づいた。
長袖の白いシャツを着た、男にしては華奢な後ろ姿を見つめながら返事を待つ。
「森」
リーダーが低い声で、男の名字を呼ぶ。
森は思わずドキリとして、背筋を伸ばした。
「は、はいっ……!」
「……余計なお喋りは無用だと言ったはずだ」
くるりと椅子を回転させた彼は、長い前髪の隙間から眼光鋭く睨みつけてきた。
実際は睨んでなどいないのかもしれないが、その目つきは森を萎縮させるのに十分だった。
──マズい、怒ってる……。
森の顔から血の気が引いていく。
「いや、あの。……ご、ごめんなさい! 以後気をつけます!」
うまい言い訳が見つからず、慌てて頭を下げて謝った。
彼はその様子を無言で見つめていたが、興味を失ったかのようにモニター画面に向き直った。
……ふぅ。良かった。
何だかんだ、真さんは優しい。
「昼食を摂ったら、また戻って来い」
「あ、はい」
「……俺が信頼してるのはお前だけだ」
尊敬するリーダーからの言葉に、森は直立不動で固まった。
頭の中で反芻し、嬉しさが込み上げてくる。
「ありがとうございますっ! 真さん、僕も……」
「さっさと行け」
犬を追い払うような仕草をされ、森は頭を下げて部屋から出た。
森耕太郎、十八歳。
監禁された可愛い少女に心が揺らぎそうになったが、やはり彼にとっては恩人とも言うべき男の存在の方が大きかった。