秘密実験【完全版】



 暗闇の中、杏奈は考えていた。


 なぜ、自分たちが選ばれたのか……。


 遊園地の帰り道、公園に行かなければこんなことにはならなかったのか。


 私と悠介を監禁したのは計画的な犯行なのか?



「ハァ……分かるわけないし」


 ため息とともに、小さな独り言を吐き出す。


 考えたところで犯人の意図が分かるはずもない。


 リーダーがこの部屋に来れば、直接訊くことも出来るのだが。


 毛布の上に横たわり、疲れを感じて目を閉じた。


 あっという間に眠りの世界に落ちていく。


 気がつくと、杏奈は家の前に立っていた。


 唐突に懐かしさが込み上げて、遠慮がちにドアノブに手を伸ばす。


 自由のない監禁生活のせいで、あんなに帰るのが嫌だった家が今は愛おしくさえ感じられた。



「ただいま……」


 静まり返った薄暗い玄関に、杏奈の不安げな声が響く。


 お父さん、龍太。


 ……由里子さんもいないのかな?



「アハハハハハ!!」


 突然、リビングの方から笑い声が聞こえてきた。


 杏奈はそっとリビングに近づき、ドア越しに中を覗き込んだ。


 ──嘘でしょう……?


 目の前で繰り広げられている光景に、杏奈は呆然と立ち尽くした。


 家族三人が、ケーキとご馳走を前に楽しそうにお祝いをしている。


 そうだ……八月は、弟の龍太の誕生日があるんだっけ。


 父親と小学生の弟、そして杏奈と血の繋がらない継母──。


 三人はとても楽しそうに笑い合っていた。


 杏奈の席がぽっかり空いていることに、誰も何の疑問も抱いていない。



「そう……。私がいなくても、楽しくやってるってわけね」


 その様子を遠巻きに眺めながら、杏奈は怒りと諦めが混ざり合ったような口調で呟いた。


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