秘密実験【完全版】



「んんっ……」


 杏奈は息苦しさを覚えながら、暗闇の中で目を覚ました。


 夢──だったんだ。


 家族の楽しそうな姿も、ただの夢だった。


 杏奈は身体を動かし、天井を見つめながら小さく安堵の息を吐いた。


 両手を後ろで回されている窮屈な体勢で寝るのは、本当に辛いものがある。


 しかし、全身を拘束された悠介を思うと我慢できた。


 人は、自分より下がいると安心する生き物なんだな……。


 彼氏をそんな対象に見たくはないが、人間としての本能が勝手に働いてしまう。


 ふと、違和感に気づいた。


 恐る恐る振り返り、後ろの壁の方に視線を向ける。



「……っ!」


 驚きのあまり、息を飲み込む。


 白い人影に、最初は幽霊かと思った。


 扉を背にして、白いシャツを着た男が立っていた。


 気だるそうに腕を組みながら、杏奈をじっと見下ろしている。


 誰……?


 よく見えないけど、今までの奴らと雰囲気が違う。


 いつからこの部屋に……。


 杏奈は心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、固まったまま男を見ていた。



「……ふっ」


 身じろぎ一つしない男がふいに、小さく笑い声とも溜め息ともつかない音を漏らした。


 コツ……コツ……


 靴音を立てながら、ゆっくり近づいてくる。


 杏奈はさっと飛び起きて、目の前に立った男を警戒するような目つきで見上げた。



「あなたが……リーダーね?」


 無言の重圧に耐えられず、口を開く。


 しかし男は何も言わず、杏奈を見下ろすだけだった。


 緩やかなカーブを描く長い前髪から、切れ長の瞳が覗いている。


 人形を見るようなその目つきに、杏奈は無意識に身をすくませた。


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