秘密実験【完全版】



 目玉が私を見てる……。


 杏奈はガタガタと身体を震わせながら、床に落ちた眼球に怯えていた。


 奇妙な舌触りが蘇って、吐き気を催しそうになる。



「い……いやぁ……っ」


「一番、好きなんだろ? 彼氏の目が」


 いつの間にか男が目の前にいて、杏奈の顔を覗き込んでいた。


 その言葉に先頃のアンケートを思い出す。


 “彼氏の身体で、一番好きな部分は?”


 その問いに、杏奈はキラキラと輝くあの瞳しかないと思った。


 しかし、そこに転がった眼球はどんよりと濁ってすら見える。



「違うっ……。それは、悠介のじゃない……!」


 杏奈は涙目になりながら、必死に首を振って否定した。


 あれは精巧な作りもので、私を怖がらせるための小道具に過ぎない──。


 混乱する頭を働かせて、自分を納得させようとした。



「……自分に不都合な真実は、誰だって信じがたいものだ」


 そう言ってテレビの電源を点ける男は、憎らしいほどに冷静だった。


 程なくして画面に映った真実に、杏奈は言葉を失った。



『うぅ……ッ』


 呻き声とともに、悠介の顔が映し出される。


 左目に覆われたガーゼには血がついていた。



『あっはははは~! 痛いだろ? 痛かっただろー? 麻酔もなくて、よく我慢したでちゅね~』


 不快な笑い声が聞こえたかと思いきや、ヌッと伸びてきた手が悠介の頭を荒々しく撫で回す。


 あれは、ピエロ男の声……。


 ショックで呆然としながらも、杏奈は頭のどこかで冷静に分析していた。


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