秘密実験【完全版】
『……なぁ、彼女。彼氏の綺麗な目ん玉、プレゼントしてやったんだ! 大切にしろよな?』
ピエロ男がカメラ目線で、ニヤニヤしながら言ってくる。
あまりの言いぐさに怒りが込み上げて、杏奈は声を荒げた。
「ふざけないでっ! 鬼、悪魔っ……!!」
『……杏……? そこにいるんだね、杏』
グッタリしていた悠介がふいに顔を上げて、右目だけでまっすぐ見つめてきた。
「悠介……。うん、ここにいるよ!」
杏奈は口元に微笑みを浮かべながら、柔らかい声で応じた。
画面越しに二人の視線が合う。
すると、悠介の表情が少し和らいだ。
『……見えるよ。杏奈の可愛い顔……』
相変わらずの優しい口調で言う彼の姿に胸を打たれて、思わず泣いてしまいそうになる。
「ゆ……すけぇ……っ」
『ハイハイハイ、終了~。けっ、安っぽいメロドラマなんか見たくねーんだよ!』
ピエロ男が忌々しそうに吐き捨て、画面に近づいてくる。
そして、そこで映像はプツリと切れた。
……悠介。
あなたは強い人だったんだね。
「……こんなことをして、何の意味があるの?」
杏奈はため息をついて、背後に立つ男を睨みつけながら言った。
すると、男はその問いかけを待っていたかのように薄い唇を微かにつり上げた。
「……お前たちは実験材料だ。それ以上でも以下でもない」
感情のない声で言い放ち、ポケットに入れていた手を出して気だるそうに髪を掻きあげた。
ナイフのような鋭い眼差しに魅せられ、杏奈は反論することも忘れてしまう。
普通の人間じゃない……。
他の仲間には感じられた、人間らしさというものがコイツからは感じられない。
感情のブレが見えない冷血人間を前に、杏奈は大きな敗北感に苛まれた。