秘密実験【完全版】
「人を……人とも思わないのね? 最低! ……いい死に方しないわよ、絶対に」
杏奈は声を振り絞り、嫌悪感を露わにした。
無表情だった男の眉がほんの少し、ピクリと反応したように見える。
「……無駄なお喋りは終わりだ。気分転換になっただろう?」
男はニコリともせずに言い放つと、扉から静かに出て行った。
残された杏奈は一人、毛布に身を包んでいた。
床に無造作に転がった眼球を直視できない。
でも……悠介のなんだよね?
このまま放っとくわけには──
杏奈は緊張気味に振り返って、眼球に視線を向けた。
目が合ったような気がして、思わず背筋がゾッとする。
「やっぱりダメ……」
膝に顔を埋めながら、息を吐き出した。
いくら悠介のだとしても、怖いものは怖い。
男が出て行ってしばらくすると、扉が開いておかめの女が部屋に入って来た。
「……はぁ。まだ生きてたの? アンタ」
目が合うなり、おかめ女は嫌みを吐いてきた。
しかし今日はおかめ面ではなく、ギャルメイクを施した素顔をさらしている。
つけまつ毛とアイラインで飾り立てた目で、杏奈をキツく睨みつけていた。
……イヤな相手が来ちゃった。
おかめ女にすっかり苦手意識を抱いていた。
「シャワー浴びろってさ! はい、着替え。とっとと動いた、動いた!」
女は早口でまくし立てながら、杏奈に洋服を投げつけた。
小花模様のワンピース。
それは、レトロな型と色合いをしていた。
「早くしろっての! 聞こえてんのォ!?」
「ちょ、ちょっと待って……!」
杏奈はワンピースから目を離し、慌てて立ち上がった。
「あ。ちょい待ちな!」
「……?」
不思議そうに立ち止まる杏奈の手を掴むと、女は無言で手錠の鍵を外した。
シャワーを浴びるときだけ、手を使っていいとのお達しが出たのだろう。