秘密実験【完全版】
猫用の缶詰を犬食いする。
まず……くもないかな?
杏奈は、とにかく空腹を満たすことで頭が一杯だった。
味なんて二の次だ。
ものの数分で食べ終わると、今度は喉の渇きを覚えた。
「……水、飲んでもいい?」
「いちいち聞くな! ダメって言っても飲むんでしょ?」
女に怒鳴りつけられ、気分が悪いままバスルームに向かう。
水道の水は生温くて、全く美味しくない。
しかし、何も飲めないよりはマシだった。
「ちょっとォー! 何よ、この目ん玉……。気持ち悪っ!」
女が床に落ちていた眼球を見て、悲鳴に近い声を上げる。
絶対に、最初から気づいていたはずなのに。
性格悪すぎ……。
「アンタの彼氏のでしょ? 次、来るときまでに何とかしなさいよ!」
「えっ? そんな……」
「もしそこに落ちてたら、捨てちゃうからね! いい? ……あー、気持ち悪い!」
女は念を押すと、杏奈の返事も聞かずに部屋から出て行った。
捨てられてしまうのは、悠介があまりに可哀想だと思う。
でも、だからってどうすれば……。
杏奈はしばらく考えたが、恐る恐る眼球の前に立った。
このまま放置するのは、本当に心苦しい。
深呼吸をして、後ろ手にそれを摘んだ。
「ひっ……」
何とも言えないツルツルした手触りに、杏奈は小さく悲鳴を漏らした。
悠介のものだと思うと、余計に生々しく感じる。
バスルームに入り、洗面台の下の扉を開けた。
タオルや石鹸などが置かれているその場所に、悠介の眼球を隠すことにした。
ごめんね?
いつか会えたときに、渡すから……。
杏奈は心の中で悠介に話しかけつつ、無意識のうちに手を洗っていた。