秘密実験【完全版】
「おい、真! 落ち着けって……!」
額田が二人の間に割り込み、引き剥がそうとする。
ほどなくして両手の力が緩まり、未来は自由の身となった。
「はぁっ……、ゴホゴホッ!」
地面に崩れ落ち、激しく咳き込む。
本気で死ぬかと思った。
──むしろ、死んじゃった方が良かったかも。
「大丈夫か? 中野ちゃ……」
「ほっといて!」
肩に置かれた手を振り払って、涙を浮かべた目で額田を睨みつける。
ただの八つ当たりだった。
真以外の他人に対してはひどく拒否反応を示してしまう自分が、本当は嫌で仕方がない。
真もそれを疎んじてるのに、私はこの“病気”を治せない……。
「まぁ、さ? 何があったか知らねーけど、リーダーが乱れちゃ話にならんのだよ」
額田は半分おどけながら、男の顔色を窺うように言った。
しかし、男は何も答えない。
「出かける」とだけ言い残し、部屋から出て行ってしまった。
残された額田と未来は、無言で“仕事”を続ける。
この部屋にいるときは、被験者を監視しつつ報告書を作成しなければいけない。
八月七日。
二人を監禁してから、丸四日が経っていた。
こんな実験に何の意味があるのか──?
それは、リーダーの彼にしか分からない。
仲間や後輩から見ても、多くの謎に包まれている男だった。
芹沢真。
若手ミュージシャンを思わせる無造作な髪型に、一見華奢だが意外に筋肉質である彼のことが、未来は好きだった。
いや、愛している。
明確な理由は分からないが、どうしようもなく惹かれてしまうのだ。
真……。
私は何をされても、あなたを嫌いにはなれないの。
報告書を簡潔にまとめながら、未来は首筋の赤い跡をそっと指先で撫でた。