秘密実験【完全版】
第四章
今が昼なのか、夜なのか──。
監禁されて何日目なのか。
いくら考えたところで、分かるはずもなかった。
杏奈は毛布の上に座り、幾度とないため息を吐き出した。
艶やかだったロングヘアーは、今やパサパサで潤いがない。
生きてこの部屋から出られるかすら危ういのに、杏奈にとって髪の手入れが出来ないことの方が辛く感じた。
自由のない、制約と緊迫の中で生き続けるしかないのなら……。
いっそ死んだ方がマシかもしれない。
澄み渡るような青い空、眩しい太陽、ひなたぼっこする野良猫、公園で遊ぶ子供たち……。
何気ない日常風景を思い出しては、猛烈な懐かしさと孤独感に身を焦がす。
「ハァ……」
どうにもならない現実に嫌気がさし、重苦しいため息をついたときだった。
扉が開いて、大柄の男がのっそりと室内に入ってきた。
体格や雰囲気からしてゾンビ男だろう。
しかし、今回はゾンビの被りものではなく素顔だった。
想像以上に、厳めしい顔をしている。
「……何かおかしいか? 俺の顔」
杏奈の遠慮ない視線に気づき、男が少し怪訝な顔つきになる。
「何でお面つけてないの?」
「あぁ、リーダーがもう被るなって言ったからだ」
「……ふぅん」
男から目を逸らし、興味なさそうな表情を作った。
リーダーとは、先ほどのミュージシャン崩れのような男のことだろう。
……どういう心境の変化?
「──おい。これ、つけろ」
男が目の前に立ち、杏奈の頭にヘッドフォンを被せた。
「何……? また、音楽を聴けって言うの?」
「違う。黙って聞くんだ」
そう言われて、杏奈は不満げに口を噤む。
程なくして、ヘッドフォンから音が流れてきた。
黒板を爪で引っ掻いたような、身の毛もよだつおぞましい音が……。