秘密実験【完全版】



「ほらよ、ジュースだ。飲みてーだろ?」


 男がニヤリとしながら、杏奈に缶ジュースを見せる。


 果汁百%の美味しそうなオレンジジュースだった。


 ……飲みたい!


 喉の乾きを覚えていた杏奈は、力強く頷いた。



「そうか。じゃあ、俺が飲ませてやる」


「えっ……」


「何だよ? 不満かァ?」


 男が睨んできたので、杏奈は首を振って否定する。


 今は奴に従うしかない。



「よし! ……じゃあ最初は、俺が試飲してやる。毒が入ってるかもしれねーだろ?」


「……」


 無言で嫌そうな顔をする杏奈を無視して、男は缶に口をつけてゴクゴクと飲んだ。



「ぷはぁー! まあまあだな。俺はビールの方がいいわ。……ほら、飲めよ」


 男が飲みかけの缶を杏奈の顔に近づけてくる。


 間接キス……。


 少し嫌な気持ちになったが、喉の乾きには勝てない。


 ゴク ゴク ゴク ……


 喉を鳴らしながら、オレンジジュースを飲む。


 冷たくて濃厚な味わいで、身に染み入るほど美味しかった。



「ひひっ。俺様の唾液入りジュースの味はどうだ?」


「んぐっ……!」


「冗談に決まってんだろ? バーカ!」


 男はそう言って、杏奈の口から缶を離した。


 まだ飲み足りないのに。



「もっとちょうだい……」


「彼氏も喉カラカラだろうな。……この残りのジュース、あいつに飲ませたくねぇの?」


「えっ……?」


 杏奈はすぐには答えられなかった。


 それは、私のオレンジジュースよ!


 ……なんて言えるはずもなく、渋々と言った様子で頷く。



「あげて。悠介に」


「物分かりのいいフリしちゃってよぉ~。本当は、お前が全部飲みてーんだろ?」


 ピエロ男の心ない言葉に、杏奈は顔を背けて会話を拒否した。


 ……図星だったから。


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