秘密実験【完全版】
ピエロ男の下劣な笑い声が響く中、映像がブツリと途切れた。
それからしばらく無音の世界が広がり、杏奈をさらに不安な気分にさせた。
頭がガンガンする、吐きそう……。
バスルームに駆け込み、トイレで吐いた。
ろくなものを食べていないから、スッキリするはずもない。
毛布の上に身体を横たえ、目を閉じる。
考えるか、眠るか──。
杏奈が自発的に行えるのはその二つしかなかった。
だから、今は眠ろう。
何も考えずに……。
物音で目が覚めた。
杏奈は毛布の上でうずくまったまま、重い瞼をこじ開ける。
そこにいたのは、貧弱な体格の坊主頭の男だった。
“少年”と呼べるほど、あどけなさの残る顔立ちをしている。
「……覆面、さん?」
杏奈は確信を持って、覆面男を大きな瞳で見つめた。
想像以上にヤワな感じ。
「えっ。あ……、やっぱり分かっちゃいました?」
男は照れくさそうに頬を掻きながら、地面に視線を落とした。
何をそんなに照れる必要があるのか杏奈には疑問だが、そのような反応の方が好都合だった。
「今度は何するつもり?」
「あ……。えーと、これを見てもらいます」
そう言って、手にしたDVDを持ち上げて見せる。
また、殺人や死体の動画だろうか?
杏奈はうんざりして、ため息をついた。
「いい加減にしてよね……」
「すみません。リーダーの命令なんで」
男は小さく頭を下げると、プレーヤーにDVDをセットした。
そもそも、何で純朴そうな彼が犯罪に荷担してまで、リーダーの言いなりになっているのだろうか。