秘密実験【完全版】
ふいに電気が落ちて、室内が暗くなった。
「……これもリーダーの仕業?」
「いえ。今、リーダーは外出中ですから。他の仲間です」
真面目に質問に答える彼は、やはり悪人には見えない。
何とかして、こちら側に引き込めないものか。
「それはピエロ? ゾンビ? それとも、おかめ?」
杏奈は早口に、部屋から出て行こうとする男の背中にさらなる質問を投げかける。
「ははっ。そんなふうに呼ばれてるんですか? 僕たち。……正解は」
振り返った男はそう言って、目線を落とした。
一瞬の沈黙の後。
「秘密です」
「……」
何よ、それ。
男は杏奈から視線を逸らすと、軽く会釈して出て行った。
テレビ画面は真っ暗で、音声も聞こえない。
DVDを間違ったんじゃないかと疑っていると、画面が上下にブレた。
ザザッ……ザ──ッ
微かな雑音とともに、ぼんやりと何かが浮かび上がる。
何……?
杏奈はよく見ようと、目を凝らした。
それは人間だった。
暗闇に溶け込むような長い黒髪に、青白い顔。
俯きがちで顔がよく見えないが、少女と思しき華奢な輪郭である。
突然、少女は顔を上げた。
「ひっ……!」
肩をビクッとさせながら、息を飲み込む杏奈。
『ウウウ゛ァアアアアア゛……!!』
獣のような低い雄叫びを上げながら、少女はぽっかりと空いた穴のような両目から真っ赤な涙を流していた。
大きく開けた口には、ブラックホールにも似た底知れぬ暗闇が広がっている。
人間だけど、人間じゃない。
そんなホラー映画に出てきそうな化け物に、杏奈は何とも言えない恐怖心を抱いた。
作りものだと分かっているのに、心臓はドクドクと早鐘を打つのだった。